「香りの愉しみ、匂いの秘密」 ルカ・トゥリン著 山下篤子訳 河出書房新社 科学と化学と著者のすぐれた嗅覚に劣らぬ直観力で匂いと香りにアプローチしたチャーミングな本です 生理学者にして調香師並の鼻をもつ異能な天才学者、ルカ・トゥリンの邦訳二冊目 前著、「匂いの帝王」の方が内容的にインパクトがあったが、続巻として読むと、この、異端、異能の天才学者の後日譚としてもよめるので退屈しない。 トゥリン氏の独自の香りと人の鼻についての「鼻に鼻だけの特殊な脳神経系とは無関係な受容体があり、香りを感知している」理論が2004年リチャード・アクセルとリンダ・バックのコンビの「遺伝子レベルでの香り受容体がヒトゲノムに存在する」という発見でノーベル生理学賞を受賞して、トゥリン理論にまた一歩近付いた トゥリン氏本人は化学と量子論双方からのアプローチから、自説は立証されるだろう、と並々ならぬ確信に満ちた一文で本書を結んでいる。 私は以前、鼻を患ってオペ入院中、一週間にわたって鼻栓をして暮らした、という恥辱的かつ不自由な暮らしを強いられた時、鼻が利かないということに意外なほどの不便を感じたことに驚きを感じた。 なにしろ、コーヒーは苦い泥水、紅茶は渋い水、ほうじ茶はいがらっぽい水、としてしか感じないのだ この状態で院内にご禁制品のアルコールを持ち込んで飲んだとしても、かりにロートシルトを呑んでもブドウ味のなにか、としか感じないだろう、と思ったものだ。 舌というもの、味覚という官能がいかに嗅覚に拠っているものか、と実感させられた。 (その結果、ダイエットが着実な成果を現し、一日1600キロカロリーで一週間過ごしたおかげでウェストサイズが五センチほど縮んだ、という思わぬ余禄にほくそえみもしたのだが) トゥリン氏の研究についての続報を待ちたいところだが、 曰く 「アイデアは金のあとについてくる」 ものだそうで、ロボット兵同様、金食い虫らしいのだ^^ 著者はこの間、自説を展開した前作「匂いの帝王」がBBCでドキュメンタリー番組として取り上げられ、一時、時の人になったかとおもうと、自説が巷間に流布させるや、見向きもされなかった論文が少しは日の目をみるようになったり、本人の科学知識と鼻を使って香料会社を設立、洗剤や消毒剤などに使用しやすい、香りがそこそこ持続し、人体と環境にそこそこ無害なオリジナル香料の特許で、金を稼ぎながら学者として研究を続けているらしい。 ドキュメンタリー番組に取り上げられるだけで学説が日の目を見るという学界の特異的閉鎖体質ってやっぱへんだよな |