「ムンクを追え! 『叫び』奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日」 エドワード・ドルニック著 河野純冶訳 1994年冬季オリンピック・リレハンメル大会で沸き返るオスロ市内で大事件が起こった。 ムンクの「叫び」が梯子とペンチ、そして黒覆面の二人組みという単純かつ大胆極まる手口で美術館から強奪された。 この事件に、美術品盗難でこの世界に右に出るものはいないといわれているロンドン警視庁美術特捜班のチャーリー・ヒルが事件に取り組むためにわざわざイギリスから出動する・・・ そして。 というまるで下手なサスペンスそこのけのノンフィクション。 大体において絵画というものは盗むに易く保守するに難いものなのだそうで。 何故というにまず、高価な美術品を購入するのは美術館等公的機関であり、公的機関は高価な収蔵品は保存・管理が大変繊細でなければならず、保守に下手をすると美術品そのものほどに金銭を食う。 なので、盗難等にかける保険、保守等はどうしても二の次になってしまうこと。 次に、いかに高価な美術品とはいえ盗難したところで捕まっても窃盗罪、かなり微罪なのである。 しかも捕まらなければ罪に問われないということ。 そして、多分美術品という再生産不可能なものの価値を示す言葉。 〜盗まれた絵画が発見、回収されると、盗まれる前よりも評価額が高くなる傾向がある。盗まれたという事実そのものが、正真正銘の名画であるという何よりの証拠だ、というわけである。〜 だそうだ。 きらびやかな来歴や箱書きが加わるごとに値が上がる茶道具もこんな感じですね。 こうして美術品盗難は後をたたないのだそうである。 この手の難事件に本書の主人公、チャーリー・ヒルが挑む。 このチャーリー・ヒルという人物の複雑な経歴とユニークな性格が読ませる本というか本書を痛快なものにすることに一役かっている。 〜母はイギリス名家の出身、父はアメリカの軍人。幼い頃から父の仕事の関係で世界各地を転々とする。アメリカの大学在籍中に志願兵としてベトナムに出征。無事帰還を果たすもPTSDになるが美術鑑賞をきっかけに立ち直る。 アイルランドのトリニティ・カレッジに留学、卒業後、ベルファストの高校で教鞭をとるがやがてロンドンに移って神学生となるも二年でやめ、ロンドン警視庁に入庁〜 架空でこしらえてもここまで波乱万丈にはしませんわね、という経歴。 このチャーリー・ヒルなる人物、現在はロンドン警視庁を退職、個人で盗難美術品専門の私的調査員を請け負っている(ちなみに儲かっているらしい)。 ここまで読んだ経歴と、このチャーリー・ヒル氏の写真をみて、テディ・ベアのような堂々たる体躯と愛嬌のある顔、まるで「マスター・キートン」のチャーリー・チャップマンに激似、と思ったんですが、偶然だろうか。 |