「いつかパラソルの下で」 森絵都著 角川書店 作者の著書をよむのはこれで三作目だが、この作家はいい。 けれん味のない描写、シンプルな日常語で潔い文章を書く。 主人公の柏原野々は25歳のフリーターで彼氏と同棲していて二十歳から実家に居つかず半分家出状態である。 そこに実家の妹から父親の一周忌を機に母がおかしくなった、と連絡を貰いしぶしぶ実家に戻る。 母の調子がおかしくなりだしたのは、実は亡くなった謹厳実直だったと思われていた父が外で女を作っていたショック、父がいなくなってこの方自分という「個」の不在に気付いた由来だった。 野々の兄も妹もその事実に衝撃を受けるものの、本当のショックは謹厳実直な父に抑えられるような子供時代をすごした故か、反動でのらりくらいとした生活をしている自分の性癖(更に主人公は自分の冷感症でを男と長続きしない事を)父親由来、いまだに父の影響下から抜け出せない、「個」の不在を思い知ったことだった。 悩みを抱えつつ、父を知る数少ない知り合いから更に生前の父の悩みを知る三兄妹。 父には淫蕩で知られる父がおり、その遺伝を「暗い血」と称して恐れていたこと。 父もまたいなくなった血族の見えない影響力に悩んでいたのだった。 折もおり、野々は同棲中の彼氏から地に足の着いていない性癖を責められ、別れようと告げられる 三兄妹は父のルーツを求めに父の故郷、佐渡島を訪ねる。 そして・・・・・ 生きること、生きることを愛することは 生きることゆえに傷つくこと 傷つくことを恐れては愛せない、生きてはゆけない。 家族との食事、彼氏との食事、彼氏との房事のシーンにまでもにどこまでも繊細に、かつ潔く描かれた本書のテーマがちりばめられ、恋愛小説でありながらベタ甘だけにとどまらず、性も生もまた愛しまた傷つき傷つけるものなのだ、と、テーマの奥が深く、読後感も爽やか。 レベッカ・ウエルズの「ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密」 のヒロインの名付け親の台詞 「親ってのは子供を傷つけるものなんだよ」 とか ヒロインの母の台詞 「愛は忘れてマナーに気をつけなさい」 とか言う台詞を思い出してしまいました。 親との付き合い方に煮詰まりを感じていた頃の自分の煮詰まりを思い出し。 煮詰まってた頃に読んでいたらどうだったかなあ、とか思った。 いい作家だなあ。 |