
「親指の恋人」 石田衣良著 小学館 幼いころ母を失い、大金持ちのヒルズ族の父親と義母と暮らす二十歳にして生き飽いて厭世観に満ちたスミオは、何気なくアクセスした携帯電話の出会いサイトで、ふと吐露した心情に、真摯に答える電波の向こうの女の子、ジュリアに興味を惹かれる。 これが出会い系サイトのやり口なんだろうな、とメールを重ねるうちに、ジュリアの率直さ、やさしさ、明るさに惹かれ、オフで会う約束をする。 携帯メールを打つ親指から、言葉と心のやり取り、そして生まれる恋。 果たしてジュリアは、はのんだくれのDV親父とぼろアパートで暮らしながらも、パン工場の非常勤務で生活費を稼ぎながらお金をためて、いつか大学に行きたい、とおもうような小柄でかわいく、頭の回転もよく、気のいい女の子だった。 逆境にめげず生きるジュリアにだんだん惹かれて行き、二人は愛し合うようようになる。 しかし、格差がありすぎる二人の仲を快く思わないスミオの父、脳溢血で倒れてしまうジュリアのDV親父、と周りが二人を容易に結ばせない。 ジュリアは父親の看護で倒れたことをきっかけに、パン工場から解雇されてしまう。 スミオの父はそれを知って、二千万の手切れ金でスミオと別れてくれ、と申し入れた。 ジュリアのために働きたい、と就職活動をするスミオだが、社会に目的の無いスミオを見透かされ就職は難航する。 ジュリアはとうとう体を売って生活し、親父の借金を返済しろ、とまで街金の取立てに詰め寄られる。 街金に、生活に、精神的に絶望的な状況に追い詰められていくジュリア。 愛し合い求め合いながら、二人の仲はどこまでもどこまでもうまく運ばない。 そして二人は心中する。 という話なんですが 小説的にはすらすら読めるし、ヒルズ族の描写も控えめで上滑りでなく、ジュリアの場末のアパート同様、ほどよく抑えた生活観があまり作品を生臭くしないで、なかなかオシャレです。 それでいて街金の取立の「 お前は本当に負けが込んだ人間というのを見たことがないんだ。あれはもう人間とはいえない」という社会の奈落を見切ったような物凄い台詞がただのオシャレ小説にさせない重さを与えている。 しかしですね 生きてりゃどーにかなるんだから、死ぬなよ、バカ。 という感想の一言に尽きるような小説でした。 以前山田ミネコさんの「最終戦争シリーズ」の自殺マニアの母親の息子の台詞に、母親を評して 「あいつの死にたい死にたい は 生きたい生きたい ってことなんだよ」 といっていたのを思い出す。 上手く、思い通りに生きることができないから、すっきりさっぱりオシャレに死ぬ方がいいという願望の表れ。 自分の命なら好きに使っていいでしょ、といわれたら返すすべがまったく無く、お好きにどうぞ、としかいえなくなりそうだが、そういう命の捨て方はなんだか上手くできなかったお料理を、味的には食えるのに、上手くできなかった、ただそれだけで鍋ごとゴミ箱に直行させてしまうみたいな感じで、同情や感傷よりも不快感が先立ってしまう。 不快=不安=不幸にして一斉に廃棄したい、みたいな。 ちゃんと分別して捨てろって |