
「鷺と雪」北村薫著 文芸春秋
大好きな作家の直木賞受賞作。 ベッキーさんシリーズ第三弾。 主人公の頭の回るお嬢さん・英子と、そのお付の文武両道・才色兼備の女性運転手、別宮みつ子こと、ベッキーさんの探偵シリーズ。 目の前の謎を解決せんとホームズたるべく奔走しては頭を抱える英子に、AからZへの飛躍をするが如く情報を解析し、なおかつ、解にたどりつく為のヒントをそっと指し示すよく出来たワトソン、というかハドソン夫人のようなベッキーさんの名コンビが帰ってきた。 清潔な文章、精緻でいて簡潔な比喩、描写。 素直でいて深慮に富む練達な内容は相変わらずさすが北村薫だー、と言わしめるのに十分。 今回の謎も、人間消失、ドッペルゲンガーからお受験小学生の不可解な夜の行動まで多枝様々な謎を、英子のクラスメイトの婚約話から英子が前作で知り合った若き軍人・若月へのほのかな慕情にからめるストーリー展開は厚さのわりにかなり読ませる内容に仕上がっている。
山村暮鳥の詩のフレーズ「騒擾ゆき」から、若月という若い世情を憂うる志しある軍人、能の「鷺」の謡「行方も知らずぞなりにける」を、そして昭和の「あの」クーデターへのエピソード展開には上手い!と唸ってしまう。
本書によらず、このベッキーさんシリーズにはいつもこの「騒擾」という世相の不安、戦争の予感が重低音の基調となって鳴り響いている。 噂ではこのベッキーさんシリーズ、これで最後とのことだが、ティーンエイジャーの激動の戦前戦中・戦後を駆け抜ける英子とそれ時に励ましながら、見守るベッキーさん、というのも見てみたい。 このさわやか系極上百合風味コンビが解消してしまうのは惜しい。
最後に、直木賞受賞、おめでとうございます。
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