「詩歌の待ち伏せ」北村薫著 文芸春秋社 見巧者・北村薫の詩歌アンソロジー 唐代・李白の 「長干行」 奥平卓訳 まず白文で 「妾髪初覆額 遶牀弄青梅 同居長干里 兩小無嫌猜 十四爲君婦 羞顔未嘗開 低頭向暗壁 千喚不一回 十五始展眉 願同塵與灰 常存抱柱信 豈上望夫臺 」 「妾が髪 初めて額を覆ひ 折花門前劇 花を折りて門前に劇る 牀を遶りて 青梅を弄ぶ 同じく長干の里に居り 両小 嫌猜無し 十四 君が婦と為り 羞顔 未だ嘗て開かず 頭を低れて 暗壁に向かひ 千たび喚ばるるも一回もせず 十五 始めて眉を展べ 塵と灰とを同じうせんと願ふ 常に抱柱の信を存すれば 豈に望夫の台に上らんや 」 奥平訳だとこうなります 「旅商人の妻の歌 前髪が額に垂れそめた頃 わたしは花を手にして門口で遊んでいると あなたは竹馬にまたがってかけてきて 青梅を見せびらかしては家のなかをにげまわる おたがいに長干の町に住む くったくのない子ども同士だった 十四の年 あなたのもとへ嫁いだものの 恥ずかしさばかりが先にたち 暗がりに向って顔を伏せたまま よばれても よばれても ふりむくことさえできなかった それでも十五になるころは やっと気持ちもらくになって 共白髪までそいとげよう 操を守って死にもしようと思いつめ はなればなれに暮らそうとは夢にも思わなかったのに」 著者も語っていることですが 両小 嫌猜無し
を くったくのない子供同士だった と 訳したセンスの高さ、さりげなくシンプルな言葉のチョイスが凄いです ちなみに この詩、続きがあるようです 十六君遠行 十六 君 遠行す 瞿塘艶澦堆 瞿塘の艶澦堆 五月不可觸 五月 触るべからず 猿聲天上哀 猿声 天上に哀し 門前舊行跡 門前 旧行の跡 一一生緑苔 一一 緑苔を生ず 苔深不能掃 苔深くして 掃ふ能はず 落葉秋風早 落葉 秋風早し 八月蝴蝶來 八月 蝴蝶 来たり 雙飛西園草 西園の草に双飛す 感此傷妾心 此に感じて妾が心を傷ましめ 坐愁紅顔老 坐に愁ふ 紅顔の老ゆるを 早晩下三巴 早晩 三巴を下らば 預將書報家 預め書を将って家に報ぜよ 相迎不道遠 相迎ふるに 遠きを道はず 直至長風沙 直ちに長風沙に至らん こっからは拙訳でなんとか 「十六のあなたは とおい 瞿塘に商いの旅にでていってしまった 五月にはもう あなたはいない とおい猿のこえがものがなしげに 山からきこえてくる 家の前、門の前 たしかにあなたの出て行った跡があるはずなのに 石は苔むして 跡形すら残らない うつろうばかりの季節は緑の葉を、赤く変えるように わたしも悲しみのあまり あのころのおさないばかりの面影なんて消えうせてしまいそう 三巴に辿り着くころには 手紙で知らせてください 迎えにゆきます あいにゆきます 手紙より早く 」 浮気しようとかそういうリビドーはないんですねえ 伊勢物語の「井筒」とはまた随分違うなあ Content-Disposition: form-data; name="image"
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