ある日洗濯物をベランダに干している時、ベランダの壁の内側になにやら昆虫の蛹が張り付いているのに気付いた。 ここに蛹がある、ということはここまで毛虫のたぐいがよじ登ってきた、ということでもある事実に慄然としつつも、蛹であるなら本の数日当たらず触らずしておれば羽化してくれるに違いない、そうに違いない、と考えた。 要するにキビが悪いと思いながらも無益な殺生はしとうない、というカンダタが蜘蛛にかけたような慈悲心をつい気紛れでかけてしまったわけだ。 そしてその翌々日。 蛹からくだんの昆虫が姿をあらわした。 体長3センチほど全体が白い ぶにょぶにょした横皺が刻まれた太い胴体 面相筆のさきっちょで墨をつけたような小さな黒い目 小さなからだの癖に前脚(っていっていいんですかね)は猛々しいほど大きく、畳のけばほどもある そしていずれ広がれば付け睫毛のような形状になることを予感させる触角と小人のスーパーマーケットのレシートをくちゃくちゃにしたようなまだ広がらない羽。 蛾だ。 羽根があるということは羽化したあかつきには無事修行を修めた仙人のごとく登仙していずれかに飛んでいてtくれるはずだ、一安心、と思っていたのだが。 これが一向に登仙の気配を見せない。 「あんた、本当に生きてンのう?」 とばかりに小さなからだを覗き込むと、どっこい “はい 生きてますですよ なにかそれで?” とばかりにぶにょぶにょの胴体の先っちょを動かして見せた。 死んでいるならゴミとして自然に帰すと称してベランダの外に捨てたのに、小賢しいったらありゃしない。 いかんともしがたく、件の昆虫は今朝もまだベランダの内側に張り付いたままだ。 素性の善くない店子に居座られた大家の気分とはかくばかりであろうか、と思う今日この頃である 無事飛び立ってくれったあかつきには件の昆虫に言いたい事一つ。 “ここで羽化するな、とDNAに刻み込んでくれ 子々孫々に至るまで” 今日で七月も終りなんですねー |