「木蓮荘綺譚 伊集院大介の不思議な旅」栗本薫著 講談社 名探偵・伊集院大介シリーズ 都会の中、都会の喧騒を離れた閑静な住宅街、初老の夫人に呼び止められる伊集院大介。 「すずちゃんをしりませんか?」 最初はいなくなった飼い猫を探していたのだろうと思っていたが、その初老の女性は二十年前いなくなった六歳の娘を捜し求めてやや錯乱しているのだという。 彼女は言う「あそこにいってからいなくなってしまったのよ」 あそこ。 そこは戦災を免れて閑静な住宅街にひっそりと立っている花木に囲まれた小さな旧い洋館。 そこにはピアノ教室を開いて生計を立てている乾八千代と名乗る旧い洋館、乾八千代が「木蓮荘」と呼ぶ旧い洋館の女主人に相応しい白髪の老婦人と、彼女が「おきの」と呼ぶ気難しいお手伝いがいた。 時の止まった洋館。 時を止めてしまったように旧い懐かしい昔の暮らしをいとなむ洋館の女主人。 懐古そして一抹の不気味さを憶えながら伊集院大介の「過去へ遡る探偵」がはじまる。 アガサ・クリスティーの名作「親指のうずき」を思い起こさせる出だしではじまる本作の主役は実は主人公でも乾八千代でもなく、この時の止まった「木蓮荘」であろう。 一見綺麗に見える実は汚れたレースのカーテン、かわいいが埃のかぶった薔薇の造花、天井の低い旧い建物のたたずまいの描写はまさしく「講釈師みてきたような」といったところか。 この作者の実力であり魅力であろうと思う。 探偵物というより、失われたものへの懐古、そして鮮やかな決別譚でした。 |