「ラン」 森絵都著 理論社 ヒロイン環は13歳で両親と弟に死に別れてから、両親の遺産で暮らしつつスーパーの通販部の入力のバイトをして暮らす内向的な22歳。 ブレーキの不具合で三日に一度は通う自転車屋の店主、紺野さんと言葉を交し合うだけ。 ある日、紺野さんが奥さんと子供をなくした人であることを知り、理解を深めるが、それをクリーニング店のおばさんに「不幸自慢」しあってるだけじゃないか、というきついことばをかけられる。 だが店を畳み山形の実家に戻るという紺野さんは、環に自転車を一台プレゼントする。 ワンオフの逸品自転車。 それは不思議な自転車で、あの世とこの世を何故か行き来できてしまう自転車だった。 環はあの世で亡き両親と弟と再会するも、腑に落ちない。 両親たちの性格が生前と違うのだ。 両親たちはあの世からまたさらに上部のあの世にシフトするために性格のカドというべき部分が「溶けて」しまっているのだ、とこれまたあの世の亡き伯母から説明される。 そして、伯母は環があの世とこの世を行き来できるのは環の自転車に執着を残して死んだ紺野さんの亡き息子だ、自転車を本来の持ち主に返せ、と言う。 亡き家族が恋しい環は自転車をしぶしぶ手放す決意をするが、あの世との行き来を諦めきれない。 そんなとき、ジョギングサークルを主催している木処という男にランナーの素質がある、とスカウトされる。 運動経験の全く無い環が。 あの世との差を埋める40キロメートルを足でうめるべく、環の限りなく後ろ向きの「ラン」が始まる・・・・・ 運動のまるでできないヒロインが初めは五キロを克服して、肉体的体力がついてくると同時に精神的体力がついてくるくだりは感動的。 散歩以外運動しない自分が走ってみたいな、と思わせられてしまうくらい。 木処主催の素人ランナーたちが物語が進む連れに日曜日に走る動機、が明らかにされていき、こころの交流 が広がっていく当たりも話に無理が無く、楽しく描かれている。 ランナーたちは物語終盤には全員なんとか歩きながらでも時間内に42.195キロ完走できる実力を身に付け、久米島マラソンにチャレンジする。 走ることをきることそのものにダブらせながら生きることは傷つくこと、傷つけてしまうこと、それでも走っていきたいと思うこと、という作者のメッセージが随所に込められている。 タナトスに現実逃避してしまい勝ちの方に一読を勧めたい。 現実はいやだいやだ、といいながらそれでもこの世に執着して自殺もせず娑婆塞ぎをしている理由を突き詰めるいい機会ではと。 |